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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)9340号 判決 1997年6月26日

原告

松谷一廣

被告

吉成保彦

主文

一  被告は、原告に対し、二〇一万二一八〇円及びこれに対する平成九年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その七を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、九一八万〇五七〇円及びこれに対する平成九年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、自動車を運転して停車中、後方から進行してきた被告運転の自動車に衝突されて負傷するとともに自動車を破損させられたとして、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

被告は、平成七年一二月九日午後八時三〇分ころ、普通乗用自動車(大阪三三る六九三三、以下「被告車両」という。)を運転して大阪市阿倍野区播磨町一丁目一四―二五先路上を北から南へ向けて進行するにあたり、前方不注視の過失により、前方を走行していた原告の運転する普通乗用自動車(なにわ三三み二五二三、以下「原告車両」という。)が渋滞のため停止したのに、その発見が遅れ、被告車両の前部を原告車両の後部に衝突させた(以下「本件事故」という。)。

二  争点

被告は、原告の損害について争つている。

第三当裁判所の判断

一  人身損害について

1  治療費 一一万七九五〇円(請求どおり)

甲第二号証、第三号証の一、第四号証の一ないし三九及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により大阪市立大学医学部附属病院を受診して頸椎捻挫との診断を受け、平成七年一二月一四日から平成八年一〇月二四日まで同病院に通院して治療を受け(実日数三九日)、治療費として合計一一万七九五〇円を負担したことが認められる。

2  通院費用 二万八八六〇円(請求どおり)

甲第九号証の一ないし三九及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記通院に際し代車を使用し、そのガソリン代及び駐車場代として一回当たり七八〇円を負担したものと認められ、その合計は二万八八六〇円となる。

3  休業損害 〇円(請求一八八万七〇〇〇円)

原告は、松谷歯科医院を経営する歯科医師であり、本件事故により、通院治療、リハビリのため大阪市立大学医学部附属病院に通院した三七日間に午前中三時間の休診を余儀なくされ、延べ一一一時間の休診により一八八万七〇〇〇円の損害を受けたと主張する。

この点、原告は、大阪市立大学医学部附属病院を受診した日には、午前八時三〇分から午前九時ころに同病院に着き、治療の後頸部牽引や温湿布等に一時間ほどかかり、待ち時間も含めると全部で半日くらいかかつたと供述する。しかし、甲第九号証の一ないし三九及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大阪市立大学医学部附属病院への通院に際しては自動車を使用したこと、同病院は松谷歯科医院の近くで松谷歯科医院から自動車で一〇分程度の距離にあること、松谷歯科医院の診察時間は午前は一〇時からであること、原告は、大阪市立大学医学部附属病院を受診した日のうちの殆どの日には午前一〇時前後に同病院の駐車場を出場していること、松谷歯科医院の看板には休診日として日曜日、祝祭日、木曜日が記載されていること、原告が大阪市立大学医学部附属病院を受診した日は殆どは木曜日であつたことが認められる。そうすると、大阪市立大学医学部附属病院の受診には全部で半日くらいかかつたとする原告の供述は信用できないうえ、かえつて、原告は、松谷歯科医院の診察に支障のない日及び時間帯を選んで大阪市立大学医学部附属病院を受診していたものと推認され、休業損害に関する原告の主張は採用できない。

4  逸失利益 〇円(請求二四三万九〇〇〇円)

原告は、本件事故により自動車損害賠償保障法施行令二条別表障害別等級表一四級所定の後遺障害が残つたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠は見当たらないうえ、かえつて、甲第二号証によれば、原告には神経学的な異常は認められず、しかも、平成八年一〇月二四日には原告の訴えていた症状もほぼ消失していたことが認められるから、原告の右主張は採用できない。

5  慰藉料 三〇万円(請求一四〇万円(入通院分五〇万円、後遺障害分九〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するためには三〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

二  車両損害について

1  車両修理費用 一三三万六一八〇円(請求どおり)

本件事故により、原告車両(ジヤガーX六)が損傷を受け、原告がその修理費用として一三三万六一八〇円を負担したことは当事者間に争いがない。

2  代車費用 四九万六〇〇〇円(請求一六四万円)

原告は、原告車両の代車として、平成七年一二月二〇日から平成八年一月二九日までの間、一日当たり四万円、合計一六四万円で、谷口清からメルセデスベンツ五〇〇SEを借り受けと供述し、甲第六号証の一、二にもこれにそう記載がある。

ところで、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、平成七年一二月一〇日から同月一九日まで原告車両の代車としてトヨタ・クラウンを提供したこと、右の代車費用は一日当たり一万六〇〇〇円であつたこと、原告車両の修理には平成七年一二月二〇日から平成八年一月二九日までの四一日間を要したことが認められる。

そして、原告が、原告車両の修理に要する期間中に代車を必要としたとしても、原告車両が外国製の高級車であるとはいえ、その修理に要するごく限定された期間中についてまでそれと同程度の車両を使用しなければならない必要性は見出し難いうえ、かえつて、原告は、被告から提供されたトヨタ・クラウンを使用することについて異議を述べていたこと等の事情も見当たらないから、原告車両の代車としては国産の高級車で十分であるというべきであり、原告が原告車両の代車としてメルセデスベンツ五〇〇SEを使用したとしても、原告が国産の高級車の代車代金相当額を超えて支出した費用は本件事故と相当因果関係を欠くものというべきである。また、代車の使用期間についても、原告が、本件事故後平成七年一二月二〇日まで原告車両の修理に着手しなかつた点については合理的な理由が見出せないことからすれば、本件事故と相当因果関係が認められるのは原告車両の修理に実際に要した四一日間に限られるというべきであり、被告が原告に対し既に一〇日間代車を提供していることからすれば、原告が被告に対し請求できる代車費用は三一日分とするのが相当である。

そうすると、原告車両の代車としては前記トヨタ・クラウン程度の車両とし、その代金は一万六〇〇〇円とするのが相当であるから、これを三一日分とすると、その合計は四九万六〇〇〇円となる。

3  評価損 〇円(請求一〇〇万円)

原告は、本件事故によつて原告車両に一〇〇万円の評価損が生じたと主張し、甲第八号証にもこれにそう記載があるが、本件事故によつて原告車両に修理によつても回復しえない機能的な欠陥が残つたことを認めるに足りる証拠はなく、原告車両の客観的価値が減少したものとは認められないし、原告が本件事故当時原告車両を転売して利益を受ける蓋然性があつた等の事情も認められないから、原告の右主張は採用できない。

三  結論

以上によれば、本件事故による原告の人身損害は四四万六八一〇円、物的損害は一八三万二一八〇円となるところ、原告は、自動車損害賠償責任保険から一一六万八四二〇円の支払を受けている(原告本人尋問の結果により認められる。)から、原告の人身損害については既に全額がてん補されているものと認められ、原告は、被告に対し、物的損害分の一八三万二一八〇円についてのみ賠償を求めることができる。

そして、本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は一八万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、二〇一万二一八〇円及びこれに対する本件事故より後である平成九年一月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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